映画美貌録

映画はミューズで出来ている。

『濡れた荒野を走れ』。

『濡れた荒野を走れ』(1973年、澤田幸弘監督)。

 ベトナム救済基金を教会から強奪し、女を輪姦した5人組の正体は警官だった。そんなある日、精神病院に入院していた警官の中村(井上博一)が脱走し、醜聞の露見を恐れた警察は二人の警官(地井武男高橋明)を送り込む…。  

 ロマンポルノ版『野性の証明』かな。  エロ描写はそこそこに、ロマンポルノと言うより日活ニューアクションの様なノリで作品全体にフィルム・ノワール感が漂っていた。とにかく地井武男高橋明の激ワルオヤジっぷりがたまらなかった。警察に作品を摘発されて刑事裁判を闘っている最中に腐敗した警察組織を痛烈に描写した映画を作るのだから、日活には気骨があった。しかも脚本を執筆したのがのちに伝説的なカルト映画「太陽を盗んだ男」を監督する長谷川和彦。荒削りで強引な展開もアナーキーな明るさで引っ張っていく。そんな激ワル濃厚オヤジ臭がする中で、中村と逃避行をする女子高生役を演じた山科ゆりの可憐さ。「中年男を包みこむ聖母の様な少女」というおっさんのキモい幻想を体現していて魅力的だった。